ナーガの泉

旅と思索

ランパーンにある ロムプーキアオ(Lom Phu Khiao – 青い湖) は、緑豊かな森に抱かれた、水鏡のような秘境だ。湖を囲む石灰岩の壁は静かな守護者のように佇み、その内側に広がる水は澄み渡り、わずかな風にも柔らかな波紋を響かせながら、深い青緑の輝きをたたえている。

伝説によれば、ここはナーガの住処。水面の向こう側には、目には見えない聖域が続いているのだろうか。湖の底近くでは、巨大な魚たちがゆったりと泳ぎ、その存在そのものが、この場所に宿る神秘を物語っている。

ナーガとは:インド〜東南アジアの神話・仏教伝承に登場する聖なる蛇(龍的存在)。水や大地、守護の象徴として描かれることが多い。)

ダイバーたちはこの泉に挑み、43メートルの深さまで潜ったと言われている。それでも、その奥はまだ完全には解き明かされていないという。どこからも水が流れ込まず、どこへも流れ出ていない……まるでタイの森にひらかれた、小さなセノーテのような場所だ。

さらに、ロムプーキアオは、遠くウドンタニの名高い寺院 ワット・カムチャノット と地下水路でつながっているという言い伝えもある。カムチャノットもまたナーガの聖域。地の底を静かに巡りながら、ナーガたちはいまも神聖な往来を続けているのだろうか。

この湖は古くから「癒しの奇跡の場所」として敬われてきた。
病に悩む人々はその清らかな水に祈りを託し、湖畔の祠でナーガに願いを捧げ――
不思議な癒しを待ち望む。

最近ではこの湖へ続く道も舗装され、観光客でも訪れやすい場所になった。
湖畔にはプラットフォームが設けられ、水際へ降りることはできなくなり、入場料も必要になった。
きっと、守るための措置なのだろう。そう理解しながらも、かつてここを包んでいた手つかずの神秘が少し遠くへ行ってしまったようで、胸の奥に静かな寂しさが浮かぶ。

それでも、湖面に広がる深い青は変わらない。
森のざわめきも、静かに息づく水の気配も、人の手では触れられないところで、いまも確かに息をしている気がする。

あの青い湖の奥底には、祈りを重ね続けてきた人々の想いと、見えない世界とつながる入り口のような、静かな気配がまだ宿っている――
そんなふうに感じてしまう場所であることは、きっとこれからも変わらない。

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