一生モノの愛聴盤〜Brian Eno『Another Green World』

ロック/プログレ
Brian Eno / Another Green World

Another Green World:針を戻した夜から、世界が変わった

Brian Enoの『Another Green World』。
リリースは1975年。
私の音楽体験の中で、「転機」と呼ぶなら、これがいちばん大きい一枚だ。

ミーハー一直線の中学生が、Enoにたどり着くまで

このアルバムに出会う前の私はというと、子供の頃から馴染んでいたクラシックを一旦通過して、小学校6年あたりから少女らしくBCR(ベイ・シティ・ローラーズ)の爆発的人気に乗って、タータンチェックを着たミーハー一直線を爆進していた。

BCRがきっかけで、その勢いのままロック雑誌を読み漁り、そこでどんどん洋楽の沼へとハマっていく。当時絶大な人気だったクイーンやKISSなども筆頭に、ありとあらゆる外タレのロックバンドの音楽をラジオで聞き、コンサートにいくようになった。
その流れで知った「Japan」というバンドに惚れ込む。デビッド・シルビアンという才能豊かな若い大物ミュージシャン登場。
そして彼が影響を受けたミュージシャンとして挙げていた名前の中に、「Brian Eno」があった。

好きな人のことは徹底的に調べにゃいかん習性である。
当時はネットなんてない。自分なりに情報を集めて、初めて手にしたEnoのレコードが『Another Green World』だった。中学3年、15歳。
同時に参加ミュージシャンのひとりに「Robert Fripp」の名前もあって、私はここからプログレ方面へも、見事に気持ちよく転がっていく。

針を落とした瞬間、イーノの世界が攻めてきた

ワクワクしながらプレイヤーに針を落とす。
1曲目は「Sky Saw」。

……ぶっ飛んだ。

いきなり、音が明るくない。整ってもいない。途中から不協和音みたいな歌まで入ってくる。
「うわ〜〜〜〜こりゃ聞いてられん!」と思って、私は思わず針を元に戻してしまった。15歳の当然といえば当然の敗北。

でも中学生にとって、レコード一枚は大出費だ。
古レコード屋へ持っていく前に、最後まで聴かにゃ・・・。そう思って、私はもう一度、針を落とした。

恐怖の1曲目を越えたところから、アルバムは別の顔を見せ始める。
そこで私は、あっさり捕まった。

『Another Green World』は、二つの世界が一枚に同居している

このアルバムには、勢いのある「歌もの/バンドっぽい瞬間」と、後年のアンビエント/環境音楽を予感させる「風景としての音」が、同じ距離感で入っている。
激しく引っ張るようなギターが走ったかと思えば、次の瞬間には、色の薄い夢の断片みたいな小品が出てくる。

数曲のイーノのヴォーカル曲も、力の抜けた柔らかい歌声で、妙にあたたかい。
そして、曲ごとに景色が変わる。万華鏡みたいに。

中学生の私が「音楽」じゃなくて「世界」に惚れたのは、たぶんここだった。
曲を聴いているというより、空想の場所に連れていかれる。
その感覚が、ひとつの入口になった。

「The Big Ship」と、私の旅の記憶

19歳で初めてアフリカ一人旅をしたとき、カイロに向かう途中で一度降りたバーレーン。
その時、ウオークマンでこのアルバムを聴いていた。

ペルシャ湾に浮かぶ船の灯り、町の小さな灯がゆらゆら揺れて、ちょうど流れていたのが「The Big Ship」だった。
ゆったり滑るような音の層と、後半でちらちら忙しく鳴る細かな音。
それが風景とぴたりと噛み合って、胸の奥が反応してしまった。

生まれて初めて、たった一人で外国にいて、ワクワクするような嬉しい孤独の中にいた。
音楽で涙が出る瞬間って、たぶんこういう時に起きる。
音そのものだけじゃなくて、場所と時間と心の状態が、全部ひとつに重なる瞬間。

参加ミュージシャンが、音の手触りを決めている

このアルバムは、参加ミュージシャンの存在感がすごい。

  • Robert Fripp(g)
    キング・クリムゾンでお馴染みの、引き伸ばされるような歪んだ音。
    「St. Elmo’s Fire」での、あのピカーッと光る感じは一発でわかる。音が照明みたいに空間を切り替える。
  • Percy Jones(b)
    ただのベース音じゃない。
    「Sky Saw」では生き物みたいにうねって、そして「Over Fire Island」では、ベースが曲の景色そのものを作ってしまう。
    リズム隊なのに背景で、背景なのに主役。そういう異常さがある。

こういう人たちが入ることで、Enoのアイデアが「発想」で終わらず、質感として実体化している。
私は当時それを言語化できなかったけれど、身体はわかっていたんだと思う。「これはただのロックじゃない」と。

いま聴き直しても、やっぱり入口のまま残っている

Brian Enoの作品には大好きなものがいくつもある。
でも、出会いの一枚というのは、やっぱり特別だ。音がどうこう以前に、「自分の耳が変わった瞬間」が刻印されている。

『Another Green World』は、私にとってそういうアルバムだった。
針を戻した夜から、世界が変わった。ほんとに。

最後に、私の抜粋。

  • Sky Saw(最初は拒否反応、のちに入口と判明する曲)
  • St. Elmo’s Fire(フリップの光のような圧巻のギターソロ)
  • The Big Ship(旅の記憶ごと鳴る。後のイーノのアンビエント・環境音楽の気配)
  • Over Fire Island(景色を作るパーシー・ジョーンズのベース)
  • Becalmed(呼吸が整う側のEno。天国で聞こえてきそう。)
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